インボイス制度とは?影響・必要な準備・ポイントを分かりやすく解説

2023/07/17

もうすぐ開始されるインボイス制度に戸惑う企業やフリーランスは少なくないでしょう。「インボイス発行事業者になるべきなの?」と悩む方がいる一方で、「インボイス制度について、いまいちピンときていない」「まだ制度について理解できていない」という方もいるかもしれません。インボイス制度はさまざまな部分に影響するため、制度開始前に基本的な知識を身につけておくことをおすすめします。今回は、インボイス制度の概要や現行の区分記載請求書との違い、インボイス制度による影響、インボイス制度の経過措置などについてご紹介します。

目次
    1. インボイス制度とは
      1. 現行の区分記載請求書との違い
      2. 適格請求書等保存方式とは
      3. 適格請求書とは
    2. インボイス制度による影響
      1. そもそも仕入税額控除とは
      2. 課税事業者の場合
      3. 免税事業者(フリーランス)の場合
    3. インボイス発行事業者になるべきなのか?
      1. 課税事業者の場合
      2. 免税事業者の場合
      3. 課税事業者であってもインボイス発行事業者の登録申請を行わない場合
    4. インボイス制度の経過措置とは
    5. インボイス制度に対応するポイント
      1. 請求書フォーマットの変更
      2. 経理業務のワークフローの見直し
      3. デジタルインボイスの仕組みを整備する
    6. まとめ

インボイス制度とは

インボイス制度とは、記載要件を満たす書類=「適格請求書(インボイス)」の発行・保存を行うことで、消費税の仕入額控除の適用が受けられる仕組みのことです。「適格請求書等保存方式」が正式名称です。

現行の区分記載請求書との違い

2019年10月1日に導入された区分記載請求書等保存方式には、軽減税率や取引内容、取引年月日、事業者名などについて記載されていますが、インボイス制度ではさらに税率ごとの税額や登録番号(課税事業者のみ登録が可能)が項目として追加されています。

【現行の区分記載請求書の記載事項】
・請求書の発行事業者の氏名あるいは名称
・取引年月日・取引内容(軽減対象税率対象品目ということを記載)
・税率ごとに区分し合計した対価額・請求書を受け取る事業者の氏名あるいは名称【インボイス制度で追加される記載事項】
・登録番号・適用税率・税率ごとの消費税額など

適格請求書等保存方式とは

先でも述べたように、適格請求書等保存方式はインボイス制度の正式名称です。
仕入税額控除の適用を受けるために必要な書類の作成・保存に関する方法を定めています。

適格請求書とは

適格請求書(インボイス)とは、適用税率や消費税額など一定の事項を記載して作成する書類のことです。
現在、仕入先が発行した請求書などがあれば仕入税額控除を受けることは可能です。
しかし、インボイス制度開始後は仕入税額控除を受けるために適格請求書をもらう必要があります。


インボイス制度による影響

インボイス制度による影響

インボイス制度の導入は、どのような影響をもたらすのでしょうか。
こちらでは、仕入税額控除の概要とともに課税事業者・免税事業者への影響について解説します。

そもそも仕入税額控除とは

仕入税額控除とは、商品の仕入・経費で支払う消費税を売上として受け取る消費税額から差し引くことです。
例えば、A社がB社へ商品を5,000円で発注し、加工したものをC社に10,000円で納品していると仮定します。
A社は売上として10,000円、消費税をプラスして11,000円をC社から受け取り、A社はB社に5,000円、消費税をプラスして5,500円を支払います。
このときA社が納税する消費税は、C社から受け取った1,000円から、B社へ支払った500円を差し引いた額の500円となります。

1,000円(受け取った消費税)−500円(仕入税額)=500円(納税する消費税)
つまり、この場合は500円の仕入税額が控除になります。これが仕入税額控除の仕組みです。

課税事業者の場合

課税事業者への影響は下記のとおりです。

必要な準備

適格請求書を発行するためには、税務署に登録申請書を提出してインボイス発行事業者にならなくてはなりません。
2023年10月1日(日)から登録事業者としてスタートするには、原則として2023年3月31日(金)までに申請書の提出が定められています。

経理業務に影響

インボイス制度では、現行の区分記載請求書に3つの項目を追加します。
そのため、請求書や納品書、帳簿などのフォーマットも記載要件を満たしたものにしなくてはなりません。

税額計算方法の変更

インボイス制度では、税額計算方法が一部変更になります。

売上税額

・原則として、現行の計算方法(割戻計算)はそのままですが、交付した適格請求書の写しを保存している場合、積上げ計算の特例を受けられます。

【積上げ計算の特例】

消費税額の合計額に「100分の78」を掛けた金額を売上税額にできます。ただし、売上税額を積上げ計算にするなら仕入税額も積上げ計算にする必要があります。

仕入税額

・原則として、現行の計算方法(積上げ計算)はそのままです。

【割戻し計算の特例】

・適用税率(8%・10%)ごとの仕入れ総額に「108分の6.24」あるいは「110分の7.8」を掛けた金額を仕入税額にできます。ただし、仕入税額を割戻し計算にするなら、売上税額も割戻し計算にする必要があります。

参照:国税庁「Ⅴ 適格請求書等保存方式の下での税額計算」

免税事業者(フリーランス)の場合

免税事業者(フリーランス)がインボイス発行事業者になるためには、課税事業者にならなくてはいけません。
課税事業者になると課税売上高1,000万円以下でも消費税の申告義務が発生しますが、免税事業者のままで適格請求書の発行ができないままだと取引が減少・解消されることも考えられます。
免税事業者に多い中小企業、個人事業主、フリーランスにとっては進退がかかる避けられない選択といえるでしょう。


インボイス発行事業者になるべきなのか?

適格請求書がなければ仕入税額の控除はできません。
課税事業者の場合は自社の税負担増、免税事業者の場合は取引減少・解消になる恐れがあります。

課税事業者の場合

課税事業者は仕入税額控除をして消費税を納付しますが、売手から適格請求書を受け取れない場合は控除ができないため税負担が大きくなる可能性があります(簡易課税制度だと変化なし)。
インボイス制度導入後の6年間は経過措置があるので、現在申請できていない、していないという方はそちらを活用しましょう。

免税事業者の場合

免税事業者は消費税の納付が免除されます。その代わり、適格請求書の発行ができないため買手は仕入税額の控除ができず、取引の減少・解消になる可能性があります。
インボイス発行事業者になるかは任意なので、検討した上で登録申請を行いましょう。

課税事業者であってもインボイス発行事業者の登録申請を行わない場合

課税事業者だけどインボイス発行事業者の登録申請をしない、というケースもあるでしょう。
その場合、免税事業者と同じく買手は仕入税額の控除ができないため、取引の減少・解消になることが予想されます。
適格請求書の発行には事業者登録を行う必要があるため、登録申請を行いましょう。


インボイス制度の経過措置とは

インボイス制度の経過措置とは

インボイス制度はその影響の大きさから、導入後6年間はインボイス発行事業者ではない事業者からの課税仕入に関しても経過措置を設けています。

・2023年10月1日(日)〜2026年9月30日(水)までの3年間は80%の仕入税額控除が可能

・2026年10月1日(木)〜2029年9月30日(日)までの3年間は50%の仕入税額控除が可能

経過措置の適用は、下記の要件を満たした場合のみ可能です。

・区分記載請求書と同様の事項を記載した請求書などを保存していること

・経過措置の適用を受けることを記載した帳簿を保存すること


インボイス発行事業者ではない事業者と取引を行っているなら、経過措置を受けることも視野に入れておくと良いでしょう。
慌てないためにも事前に確認することをおすすめします。


インボイス制度に対応するポイント

こちらでは、インボイス制度に対応するための3つのポイントをご紹介します。

請求書フォーマットの変更

適格請求書は記載する項目が増えるため、事前にフォーマットの変更を行いましょう。
現行のフォーマットに手を加えるだけで良いのか、新たに作成する必要があるのかなど、対応は企業によってさまざまでしょう。慌てて準備することがないように、あらかじめ準備しておくと安心です。

経理業務のワークフローの見直し

インボイス制度では下記の4つの作業が義務化します。
・適格請求書の交付
・修正後の適格請求書の交付
・適格返還請求書の交付
・写しの保存
これによって経理業務の負担が大きくなる可能性があるため、業務のワークフローの見直しを行いましょう。

デジタルインボイスの仕組みを整備する

デジタルインボイスの仕組みを整備することも大切です。
デジタルインボイスとは、簡単にいうと「電子データ化した適格請求書」を指します。
より詳しくいうと「Peppol(ペポル)という国際基準・ルールに基づき作られた、異なるソフトウェア間でやり取りできる電子データ化した適格請求書」です。
DX化やペーパーレス化が推奨される現代において、インボイス制度により煩雑化する業務の改善にデジタルインボイスの活用を進める企業は少なくないでしょう。
電子帳簿保存法の改正による電子データ保存の義務化もデジタルインボイス普及の追い風になるはずです。
どのような状況でも対応できるように、デジタルインボイスの仕組みを整備することをおすすめします。
デジタルインボイスに対応するなら、請求書の電子化を進める必要があります。



まとめ

インボイス制度が開始すると、適格請求書の発行を求められるケースが増えたり、こちらが発行を依頼したりするケースも出てくるでしょう。
インボイス発行事業者でなければ適格請求書の発行はできないため、仕入税額の控除ができずに税負担が重くなることがあります。加えて、取引を見直される可能性もあるため、企業によってはインボイス制度がデメリットに感じることもあるはずです。
インボイス制度にうまく対応するためには、経過措置期間が設けられている間に準備を進めることが大切です。

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