業務改善や災害支援など自由な発想や思いを形に
一般社団法人 横浜市医師会
経理課 主任 内藤 昌平 様
保健情報課 瀬能 展也 様
会社名 |
一般社団法人 横浜市医師会 |
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所在地 | 神奈川県横浜市 |
事業内容 | 予防接種事業、健診事業、広報事業、地域医療連携センター事業、 医療機関連携推進事業、救急医療事業、介護保険事業、 訪問看護ステーション・ヘルパーステーション事業、看護要員養成事業、 産業医事業、学校医事業、保育園医事業 |
URL | https://www.yokohama.kanagawa.med.or.jp/ |
一般社団法人 横浜市医師会様は、DXの取り組みとしてkintoneとプラグイン「ATTAZoo」※を導入。
アプリ開発を水平展開し、今では事務局職員の方全員がアプリ開発を行っています。
これまで幅広い業務の効率化を実現したほか、新型コロナワクチン集団接種や能登半島地震の災害支援などのアプリを意欲的に開発し、緊急性が求められる活動を支えてきました。
どのようなDXの取り組みがされてきたのか、経理課 主任 内藤 昌平 氏、保健情報課 瀬能 展也 氏にお話を伺いました。
導入前の課題
【従来のスクラッチ開発では、期間やコストが限界に】導入後の効果
【全員が開発者となり、幅広い用途で活用】ー横浜市医師会 様の事業内容や特徴についてお聞かせください。
内藤: 横浜市医師会は、横浜市内に医療機関を構える医師を対象とした会員団体です。
医療機関を通じて横浜市の保健衛生、市民の方々の医療 ・介護を支える仕事をしています。また災害が発生した際には、JMAT(日本医師会災害医療チーム)の活動も行っています。
2024年1月能登半島地震の際に注目された DMAT(災害派遣医療チーム)は、主に発災初期の支援活動であるのに対し、その後の活動を引き継ぎ、被災地医療機関の再生や復興を支援するのが JMAT です。
JMATは各都道府県を経由して日本全国の医師会から派遣される形で活動を行っています。
能登半島地震の際はインフラが整備されていない状態が続き、DMAT の活動が1か月に及びました。
そのためDMATと並行してJMATの活動も行われ、神奈川JMATとしては2月下旬から5月にかけて活動していました。
ーDXの取り組みについてお聞かせください。
瀬能:
横浜市医師会が本格的にDXに取り組むようになったのは、コロナ禍が大きく影響しています。
行動が制限される中で場所を選ばず情報を共有できるように「業務効率化」「セキュリティ」「Web会議 ・ 講演会の標準化」を目標に「マルチSaaS DX」を掲げました。
業務効率化で核となっているのがAWS上に構築した業務システム、kintone、コラボフローです。
またマルチSaaSを支えるセキュリティとして多要素認証のOktaを導入しています。
ーkintoneを導入したのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
瀬能: コロナ禍の折に横浜市から新型コロナワクチンの集団接種会場の人員派遣を受託したのがきっかけです。
横浜市内各区に複数の会場を設け、多い時には1日に30会場以上で、集団接種を実施しました。
従事する医師や看護師の派遣、シフト作成や勤怠管理、出動費支払いなど、開催するたびに複雑な管理を行わなければなりません。
さらに下部組織である各区医師会、行政、出勤者が状況を共有 ・ 確認できる仕組みが必要でした。そこで迅速にシステム化できる手段としてkintoneを導入しました。
内藤: 本来ならスクラッチ開発が必要なアプリなのですが、コストに限界があり、時間もありませんでした。
ここにいる瀬能さんと私は当時同じ保健情報課にいて、この課題に直面しました。
kintoneではたして実現できるのか不安を抱えつつも「とにかくやるしかない」とアプリ開発に取り掛かりました。
試行錯誤を繰り返したものの、アプリは無事完成し、なんとか集団接種を乗り越えることができました。
この成功体験を得たことで「普段の業務にも kintoneが活用できるのではないか」と
考えるようになり、組織全体で展開することになりました。今では事務局の職員全員が活用しています。
ー 「ATTAZoo+」を導入した理由について教えてください。
瀬能:最初は標準機能だけでアプリを作ろうとしたのですが、かゆいところに手が届く作りこみをするには、JavaScriptでコーディングをしなければなりません。
誰でもアプリを作れるようにするために、コーディングを不要にしたいと考えてプラグインを探したところ、「ATTAZoo+」を知りました。
検索や、入力サポート、採番など、kintoneではできない機能を補ってくれるため、ほとんどの職員が使っています。シーズンごとに機能の強化やプラグインの追加があるのも魅力です。
どれかひとつのプラグインだけでこの価格でもよいのではないか、と思えるほどコストパフォーマンスに優れていると思います。
ー 「コラボフロー」については、どのような理由で導入されたのでしょうか。
瀬能: 横浜市医師会では、各種研修会を開催しています。
従来は研修会場を借りていましたが、コロナ禍の行動制限時には、どこも会場を貸してくれなくなりました。そこで本会のオフィスを改修して研修会場を作ることになりました。
研修会場を作るためには、物量を少なくして今までの業務エリアを削減しなければなりません。そのためには今までオフィス
で保管していた申請書類をペーパーレス化する必要がありました。
加えて決裁後の処理を効率化するため、kintone に連携させたいと考えました。
JBCCから提案されたコラボフローは、kintoneを始めとした外部システムとの連携が充実している点、Excelで作った決裁文書をそのままデジタル化できる点を評価して導入しました。
ーJBCCの提案やサポートについて感想をお聞かせください。
瀬能: kintone を組織全体に展開するにあたり、私たちだけでは何も扱ったことのない職員全員をサポートするのが難しいと感じていました。
その時、JBCCがハンズオンセミナーを開催して、画面を見ながら一人一人に教えてくれたことが、アプリ開発者を増やすきっかけになったと思います。
セミナーの内容は動画で撮影して、今でも新しく入った職員
向けの教材にしています。
また、JBCCはペーパーレス化についてコラボフローだけでなく、セキュリティ対策としてOktaによる多要素認証の提案をしてくれました。役員は外部でコラボフローを利用することが多く、決裁情報には個人情報や内部情報が含まれています。セキュリティリスクが懸念されましたが、
Oktaを導入したことで安心して利用できています。
JBCCはいつも
システム全体を俯瞰して提案してくれるので、助かっています。
ー 今まで作ったkintoneアプリで代表的なものをご紹介ください。
瀬能: 私が最初に作ったアプリに「受付簿」「発信簿」があります。厚生労働省や自治体、上部医師会などからの通達の受付と、下部組織や会員の医療機関、外部団体へ発信する文書を管理するアプリです。
従来、受付/発信するたびに採番してスタンプを押していましたが、
部署ごとに番号が採番されており、一元管理ができていませんでした。送信先が会員の医療機関の場合と外部の団体の場合で、管理簿が別々になっているなどフローも複雑になっていたため、
運用フローをシンプルにした方がよいのではないかと考えました。そこで上長に相談して運用を見直し、組織全体で採番し文書を管理するアプリを開発しました。
今ではいつ ・ どこから ・ どのような文書が受付/発信されたのか、簡単に検索できるようになっています。
発信については会員医療機関から代表電話で問い合わせがくることも多いのですが、担当部署がすぐにはわからず取次ぎに時間がかかっていました。
今は番号を採番しているため、文書の番号ですぐに検索することができるようになりました。
仕組みはシンプルですが、多くの職員が業務で必ず使うアプリであり、「kintone を活用すればこのような便利なアプリが使える」と実感してもらうことができました。
kintoneの普及を狙いとしてアプリを作ったわけではないのですが、このアプリをリリースしたことで、自然とkintoneの活用が広がっていきました。
内藤: 私が紹介するのは、能登半島地震のJMATで活用したアプリです。
横浜市医師会では 7 チームが現地の活動を行いました。現地での活動工程は上部医師会から通達されるのですが、刻々と現地の状況が変化するため、混乱が生じることが度々ありました。
例えば金沢駅まで新幹線で
行くまでは確定していますが、どの地域や避難所に支援活動に行くか等、現地での活動内容は状況に応じて変化していきます。LINE で最新の状況について適宜配信されてきますが、頻繁に多くの情報をやり取りするため、知りたい情報が埋もれていってしまうという問題がありました。
そこで必要な情報を集約するため、kintone のスペースを開設しました。各隊のスケジュールや必要な連絡先は該当のアイコンやタブをクリックするだけで、ダイレクトに参照できます。
ほしい情報をすぐに参照できるように ATTAZoo+の「タブ表示+」を利用しました。また、現地の経費精算で、前払いした現金の紙幣や硬貨の枚数を入力すると金額を自動で集計し、経費の履歴と残金が合っているかを照合して経費の記入漏れを防ぐ仕組みも作りました。
当初、私は現地へ派遣される予定でしたが決定にはいたらず、サポートに回りました。現地に行けなくても何かできることはないかと考えた時、必要な情報をすぐに閲覧できるアプリを作れば、支援活動をしている方
の力になれると考えました。
そこで上長にアプリの提案をして、現地で活動している職員や総務担当者、経理担当者と共同で作りました。まさに総力戦で開発したアプリだと思います。
ーkintoneを組織全体に展開することで得られたメリットはありますか。
内藤:全員がアプリを開発することで、仕事の視野が広がったと思います。例えば私がアプリを開発してリリースすると、瀬能さんや他の部署
の人が「さらにこうした方がいいのではないか」とアドバイスしてくれます。
他の人からアプリの開発で相談されることもありますし、どういうアプリを作ればいいのかという話もよくします。こうしたやり取りが増えたことで、部署の垣根を越えて横のつながりが生まれました。
今では他の部署の人がどのような仕事をしているかを知る機会が増え、コミュニケーションが活発になってきたと思います。
ーアプリを開発する上でどのようなことに気を付けているか、ご自身の経験からアドバイスをいただけないでしょうか。
瀬能:最初から100%を目指さず、ある程度、形になったらすぐに使ってもらうことが大切です。
使用している人の意見を聞きながらブラッシュアップした方が、結果的にクオリティの高いものができると思います。
改善点が見つかった時に、自分でアプリをカスタマイズできるのがkintoneやATTAZoo+のいいところだと思います。
ー 今後kintoneをどのように活用していきたいですか。
瀬能: 新しく完成した会場で講演会や研修会を開催した際の出欠状況を管理することを考えています。
「ATTAZoo U」※というプラグインには「データ更新用二次元コード生成」があります。
参加者に二次元コードを配信し、二次元コードを読み込んだら自動でkintoneのフィールドを出席に更新する仕組みが作れるか検討しています。
内藤:今までアナログな業務が多かった経理課の業務をkintoneでデジタル化してきており、ようやく回り始めたという段階まできました。
ただ、まだまだできることはあるのではないかと考えています。
経理業務のデジタル化については上司の期待も大きいので、どのように活用すればその期待に応えることができるのかを日々考えています。
また、kintoneによって組織間の連携ができるのではないかという期待があります。
ATTAZoo Uでは別ドメインアプリへの更新ができるため、他の医師会で作成したアプリと互いに情報を連携する可能性も見えてきました。
こうした連携を社会全体で行えば、今回のような災害支援でもよりよい効果が生まれるでしょう。
アプリ開発の可能性をさらに広げる上でも、今後もJBCCに支援いただければと考えています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。